リアル浦島太郎、体験記

②けいけん(考え)
画像出典: Engin_Akyurt
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ぼくは35歳の時、「昨日まで13歳だったはずなのに鏡の中の自分がおっさんになってる」ことに愕然とした(関連記事:「長めのプロフィール」)。それまでの記憶がなくなったわけではないし、むしろ苦しかった一秒一秒の蓄積の感触というか、そういうものが生々しく体の内にあったけど、目の前にあるものが現実とはどうしても受け入れらなかった。「ここは自分の時間と場所じゃない、帰らなきゃ…」、と思っても、帰りようがないし、よく考えなくても、帰ったところであんまり幸せな状態じゃない。だから病気にまでなったわけだし。

それからは、社会で出会うものにいちいち驚くことになった。世間のことも良く知らなかったから。そっかー、浦島太郎って、こういう感じかー…

長い間、テレビ見てなかったし、人とコミュニケーションを取ることもほぼほぼなかったから、現代の文化が分からず、最初はスマホに驚いた。念のため、スマホの存在は知っていたし、パソコンには触ったこともあったんだけど、そうではなく。電車に乗った時に遭遇した、スマホ画面に一様に指を滑らせる人間の姿が、異様に映ったのだ。自分が知る最後の携帯は、パカパカ携帯?とかPHSみたいに、基本話すのがメインのモバイル機器だった。でもスマホはメールレベルでなく、動画も見えるし音楽も聴ける、新しい情報をいくらでも収集できるらしい。新興宗教かしらと思うほど、みんな一心不乱に小さな箱に夢中になっているように見えた。はー…、すごい時代にきちまっただな、と中身13歳のおっさんは途方に暮れる。

テレビを見れば、昔から見知っているはずのタレントさんが、明らかに歳を取っている。ぼくの記憶は当時から約20年前に遡る方が殆どで、○○さんはおじいちゃんになっているし、アイドルだった△△は中年になっている。反対に、異様なほどに若い顔のまま、ふさふさの髪のまま、活動を続ける歌手グループがいたりもした。でも、以前とは何か様子が違う、それは伝わってくる。…まあ、当たり前だし、歳取ってるの自分だけじゃないんだという安心感のようなものも感じるんだけど、なんか、どうしても納得できない。

自分が生まれた町に帰ってみると、見たことない建物の中に見覚えのある建物が紛れてるんだけど、道の構造が変わっていたりして、これ、本物かなあ、違うとこに来ちゃってないよね…と感じる。サイズ感も違う気がする。でもなんかのセットだとしても、わざわざこんなん作らんよな…。
幼馴染の女の子の家に行って、こわごわチャイムを鳴らしてみる。警察に通報されないかなあと、訳の分からない不安がよぎる。中から、見覚えのあるおばちゃんが出てきて、それはその女の子のお母さんで。名前を名乗ると、あらあらとアニメのキャラクターのようなリアクションで笑顔を向けてくださった。ただ、娘さんはもう何年も前に他県に嫁いでいて、会うことは難しいようだった。彼女もまた、ぼくの記憶ではやはり13歳の女の子のような気がするのだが、今はお母さんになっているという。そういえば、そんな噂をいつだったか聞いたような気も。仕方ない、お母さんに会えただけでも良かった。そしてぼくの存在を認知してくれる人がいてくれてよかった…
その家の近くには、やはりもう一人幼馴染の男の子の家があったから、玄関を開けて声を掛けるけど、返事はない。失礼かとは思いながら、玄関からジロジロと中を覗くと、その良く片付いた家の中は、まるで当時と何も変わらなくて、時間が止まっているようだった。途端、訳も分からず息苦しさを感じて、ぼくは逃げるように、現在の住処に車を走らせることになった。

どうしよう、本当にここはもうぼくの知る世界じゃないのか…。テレビをつけると、見たこともないアニメから、聞き覚えのある声優さんの声が聞こえてくる。そしてこの声も、あの頃の体から出ているわけではないのか、と考える。うん、そりゃそうか…

色んなことが起きるもんだなあと思う。当時は心細くて、毎日泣いていたけれど、多少現世にも慣れ、今はスマホで映画観たりもしています。

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