「君をそこまで思い詰めさせているものは何だ?何から逃げている?(CV: 磯部弘)」(テイルズオブエターニア ネタバレ注意)

②けいけん(考え)
画像出典: sergeigussev
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2000年のゲーム、「テイルズオブエターニア」のプレイ配信を観ていて、とある場面のレイス(キャラクター)の発言に驚いた。この頃、日本でもこういう視点を作品に登場させている人がいたんだなあ、そして多分、この考え方は現代でも理解されづらいだろうなあ…と。

それは、仲間が寝静まった焚火の前で、ヒロインであるファラと、一時的に同行することになった商人(実は偉い人)であるレイスが会話している場面でのこと。世界を救おうと張り切るファラに、レイスが不思議そうに尋ねる。
「… なんだか嬉しそうだな」
するとファラは答える。
「…わたしね、こういう日が来るのをずっと待ってたのかもしれない 世界の人達の役に立てるかもしれないってことがとっても嬉しいの。それに…」
「それに?」
「なんだか安心出来るんだ」
「ほぉ…?」
「わたしががんばることで誰かが幸せになってくれたらほっとする。昔っからそうなんだ」
そんなファラに対して、普通日本の一般的なリアクションとしては、優しいんだね!とか、あなたは心が綺麗な人なんだね、といった賞賛が想定されるけど、レイスは違った。
「なるほど。…重症だな、それは」
もう、やれやれ、と言わんばかりの勢い。そしてファラの心を見透かすように続ける。
「君をそこまで思い詰めさせているものは何だ?何から逃げている?」
当然ファラはおもしろくないし、レイスの発言の本当の意図にも気付かなったか、もしくは無意識的に気付かないようにしていたんじゃないかと思う。
「逃げてる?わたしが?…失礼だなあ!!わたしは怖いものなんてないよ!」

結論から言うと、レイスの言うようにファラは逃げていた。
かつてファラのわがままをきっかけに、家族や多くの人の命を奪ってしまう事件が起きた。おそらくそれは、自分の存在意義を疑う出来事として、彼女の心の奥に刷り込まれてしまったのだと思う。逃げているその対象を敢えて言葉にするなら、罪悪感と自己否定感だろうか。それからのファラは、困っている人を見付けては助け、お節介を焼き、その度に自分の存在を自身に赦してきたのだろうと思う。「わたしががんばることで誰かが幸せになってくれたらほっとする。」レイスは、ファラ自身さえも無意識に見ないようにしていた心の傷を、その言動から見抜いていた。

…でも実はこれ、人間の心理や発達を学ぶと単純な話で、「2が足されて3になってるんだから、元の数は1でしょ?」くらいのこと。その考え方が当たり前だろうレイスにとっては、当然のことを口にしたまで。目的論とか原因論と言われると小難しい話に聞こえるけど、たとえば、人に過剰に認められたい人は、子どもの頃十分に無条件の愛情を受け取れなかった人が多いよねとか、この犬が人をここまで恐れるのは、きっと酷い虐待やいじめにあってきたんだろうね、みたいな考え方ができるってこと。気付かない内に腕にかさぶたができてたら、どこかでひっかけたのかな?って考えるのと同じ。

でも、心のことになると、日本ではこういう考え方は一般的じゃない。精神論や努力信仰が強く、人の心は個人の心持ち次第(自己責任)…といった考え方が根強いから。それを否定することは、自分の地位や誇りは、全て環境がもたらしたものです、と宣言してしまうことにも繋がる(優秀でもメンタル面のケアが不十分な場合、成功体験だけを頼りにやってこられた方も多いと思われます。関連記事:「教育の理論」)。結果として、日本では精神的な問題に対するケアやマイノリティー支援が遅れ、人権問題にまで発展してしまっている(国連からの勧告は続いている)。
だからこそ、2000年に触れることのできた、このレイスの考え方に、なんだか頼もしい気持ちになった。確実に、気付いている人はいる。

人は遺伝子と環境で決まることは事実だけど、人が悩みながらも生きていくことには何ら変わりがない。今社会的地位が高く、政治や価値観の操作を握っている人達が勇気と誠実さ見せなければ、これからもマイノリティーは見殺しにされる。人間の歴史を振り返ると、支配者や特権階級(貴族・人種・健常者)の人間は常に、自分を守るためのイメージ(安定した社会認知)を崩すものを、妄想共有からの数の暴力で排除してきた。たとえば、「○○人は差別していいのだ」と言い聞かせるための物語をつくり、共有し、「だからこそ、この国に差別や人権侵害などない!」と断言してしまうように。
もっと小さな規模ではあるけれど、ぼくは、そういう日本人を沢山見てきた。レイス風に言うなら、
「君をそこまで頑なにさせているものはなんだ?優性思想か?健康で有能で、若く美しい人間にしか生きる権利はないと、環境によって教えられてきたのかい?」
「優秀であることを示し、差別する対象を確認することでしか、自身の存在を肯定できない文化だったのだろうな…」
とかかなぁ。…あのイケボで言って欲しいわー。

主な参考文献(作者五十音順)
・「テイルズ オブ エターニア」(2000)ナムコ PlayStation
・本阿弥あずさ(2024年8月2日)「【TOE】自分をファラだと思い込んでいる女子高生のテイルズオブエターニア②【本阿弥あずさ / すぺしゃりて 】」YouTube. https://www.youtube.com/watch?v=fFlSxnuHgCI&list=PLmY7flrdWoUdp5C3X-0ZeedlsKnXdbPEB&index=2 2025年4月12日参照

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