ガウル・グラも卒業。なぜ人気Vチューバーが卒業に追い込まれるのか、教育学の観点から考察

②けいけん(考え)
画像出典: niki_emmert
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※はじめに
本記事には、特定の人物や企業、考え得る特定の第三者を責めたり、侮辱したりする意図は一切、含まれておりません。人気Vチューバーの卒業背景を考察することで、健康にタレント活動を継続できる社会を目指すだけでなく、原因を同じくすると考えられる多くの社会問題(不登校・過剰な努力・ひきこもり・精神疾患・自殺)を解決したいという目的において作成しています

1. 人気Vチューバーたちの卒業、なぜ?

相次ぐ人気Vチューバーの卒業。2025年4月16日には、ガウル・グラ(Gawr Gura)さんの引退も発表されました。グラさんの卒業宣言動画においては、精神面での問題であることがはっきりと伺える内容でしたので、表向きは兎も角、同様にメンタル面での問題を抱え卒業されていった方の背景を考察する、という、できる限り大きな括りでお話をさせていただこうと考えています。

Vチューバーファンの方々の中には、卒業宣言を聞く度に疑問を感じておられる方も多くみえるのではないでしょうか。不人気だったり炎上しているなら兎も角、何故こんなにも人気があっても心を病んでしまうのか、と。英語圏内で母数が大きいとはいえ、グラさんのYouTube登録者数は現在約457万人(2025年4月16日時点)、これは並大抵のことではありません。私自身、エンターテインメントとしては勿論のこと、英語学習の目的もあって、度々彼女の動画は拝見していました。しかし、その人気に伴わず、長期的にみて彼女の調子はあまり芳しくなかったようです。ストリーム配信も時間を空けることが多く、そんな彼女を心配する方々の様子も数多く見受けられました。

2. 結論: 健全な成長に必要な環境がなかった(自己肯定、安心感、社会的信頼の欠如)

科学的観点(教育学、心理学、脳科学等)における考察上の結論から言うと、グラさんの卒業理由は、「無条件で愛される経験の欠如(不充分さ)、安心感・安全感の欠如(不十分さ)」が原因になっていると考えられますこれは環境による繰り返しの学習によるものです。生育環境(幼少期に限定しない)が、社会適応するための安定した心(脳)の基盤形成を妨げてしまった、という意味です。

なぜそのような結論になるのか、理解が追いつかない方も多くいらっしゃるはずですので、順を追って説明します。

3. 根拠: 一番は教育の理論。科学的視点が、グラさんの発言を説明している

遠回りのように思われるとは思いますが、はじめに、教育の意味するところ、教育の理論(人間の心(脳)の発達)について、簡単に説明します。この理論の軸を掴むことができれば、大げさではなく、人気Vチューバーの卒業に限らず、多くの社会的問題の原因が見えてきます。それだけ人間の精神状態には重要で、応用の効く理論なのです

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・教育(愛情)の意味
教育の主となる柱はメンタル面と学習面の2本です。重要なのは前者で、これが不十分だと社会生活を送るための基盤が整わず、生きること自体が困難になります。そもそも人は独立して生きられるようにはできていないからです。

ではメンタル面の教育に必要となる具体的な要素とはなんでしょうか。それは、子どもが条件の伴わない愛情を感じて育つことです。重要なのは、「養育者等が子どもを無条件に愛しているか」ではなく、「子どもが無条件の愛情を感じられているか」です。

無条件の愛情を感じることで、子どもの潜在意識には「自分には価値がある、人間は皆味方だ」といった感覚が書き込まれます。ここでの焦点は、「その感覚が事実かどうか」ではなく、「無意識レベルに刻めるかどうか」、です。この感覚がある程度養われることで、人は人の群れの中での生活を前提に生きることができます。幼少期に充分な愛情が必要だと言われるのはこのためです。
(詳しくはこちら→「教育の理論概要」)

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ここでグラさんの実際の発言を振り返ってみます。(英文の聞き取りに関しては、ホログリッシュの岡崎修平先生のコメント記述を参考にさせていただいています→ホログリッシュはこちらhttps://www.youtube.com/@hologlish

・It was incredibly exciting, but also very intense and unexpected to be suddenly surrounded by so many eyes and expectations. 急にたくさんの視線と期待に囲まれるのは、すごくワクワクする体験でもあったけど、同時に強烈で、予想できないものだった。

・I remember there being many days where the stress was so overwhelming that I couldn’t eat or keep food down. ストレスがあまりにも大きくて、食事がのどを通らなかったり、吐いてしまったりする日が沢山あったのを覚えてる。

・You helped pull me out of my shell when I went off from being too scared to sing alone in my shower, to singing live in front of hundreds and thousands of people. みんなが殻から引っ張り出してくれたから、一人シャワーの中で歌うのさえ怖かったのに、何百、何千人もの前で歌えるようになった。

・With you, I’ve been able to achieve what I thought for a very long time would be impossible for a girl like me to feel a part of something, and to belong. みんなと一緒だったから、自分みたいな女の子には無理だと思っていた「何かの一員になって、居場所を感じる」ということに、辿り着くことができた(おそらくこれは、「辿り着けそうだった」の意)。

・Thank you for waiting for me to return when the outside world became too much. 外の世界が耐えきれないときも、戻ってくるのを待っていてくれて、ありがとう。

言葉通りであるなら、彼女は自己肯定感が低く、ありのままで存在してもいいと思える場所や、感覚を持てずに生活してきたことが伝わってきます。このような状態は、まさに安心して育つことができなかった方の典型で、これらは各家庭というよりも社会的風土、体制に問題があることが多く、特に日本では同様の感覚を持っておられる方も多いのではないでしょうか。

4. 疑問1: そうだったとして、人気者になったことで解決しなかったの?

一旦、一部のアンチや誹謗中傷を横に置いてお話を進めますが、つまりこのような場合、人気があることが、ご本人自身の自己肯定には繋がっていないということです。むしろ、人気があるのは誰も本当の自分を知らないからだ、本当の自分を出したら嫌われる、といった思考を過去の体験が招き、人気があること自体が彼女の孤独感を増大させてしまっていたと考えられます。(そのため、心情的にも英語のニュアンス的にも、「「何かの一員になって、居場所を感じる」ということに辿り着けそうだった。」と解釈する方が自然だと考えます。)たとえ、どれだけ意識的に「本当の自分を完全に知ってもらうことなど不可能だ、誰だって無条件で愛してもらうことなど不可能だ」と言い聞かせてみても、それだけで深層心理(繰り返しの経験によって刷り込まれた学習)を克服することは困難です。人は基本、自身の経験に基づく学習を信じ、その感覚を基盤に生きるしかないからです。一方で、愛された経験をして育った人は、どれだけ理屈で「本当の自分を完全に知ってもらうことなど不可能だ、誰だって無条件で愛してもらうことなど不可能だ」と言われても、自身は愛されたという経験に基づいて生きているため、そこに躓くことが少ないというわけです。(日本の一般論とはかけ離れていますが、ネグレクトといった虐待が科学的には深刻に捉えられている理由は、その子どもの一生を左右してしまう可能性があるからです)

そこに、目に見えてアンチの存在や誹謗中傷が加われば、当然理解は自身の長年の学習を裏付ける証拠として働いてしまうのです。

5. 疑問2: じゃあ会社との方針の違いは嘘?

グラさんは動画の冒頭で、はっきりと以下のような発言をされていますが、以上のような理由から、私にはこれを直接の原因だと捉えることができません。

・My reasons being, disagreements with management and company direction. (卒業の)理由は、経営や会社の方針との不一致です。

調べてみると、卒業されたVチューバーの多くは、会社との運営方針の違いを卒業理由として挙げていますが、グラさんのようなケースの場合、これは正確ではないでしょう。なぜなら、仮にそれが事実問題だとしても、なぜ彼女が動画内でも大好きだと公言している活動を取り仕切る会社の運営方針に合わせることができなかったのか、という問いが浮かんでくるからです。グラさんは5年とのことですが、たとえ短期間の方であっても、他者に認められるだけのパフォーマンスをしてきた方々です。当然、会社が、基本資本主義社会の競争のため運営されていることも理解されています。最初から個人で成功できない世界だと知っているからこそ、人気のある会社に入社、契約しているのです。健康な方であれば、平日8時間の労働+αをすることはそこまで難しいことではないはずです。でも、できない、それは何故か。仮に会社の方針が、人気をより強固なものにし、売り上げを安定・増大させるため、週に3回配信する、ライブ活動に力を入れる、等だったとしましょう。グラさんのような精神状態の方にとっては、健康を損なわない範囲で働くことが辛いのではなく、自己の存在に疑問を感じずには居られない場に、度々さらされなければいけないことが辛いはずなのです。だからこそ、卒業理由を方針の不一致としながらも、その先に続く発言が、「会社の方針との衝突、その具体例」ではなく、「それとは関係ないと思われるような彼女の心情の話」が続く、と捉えられるのです。感情が追い付かない・耐えられない結果として、会社の方針とぶつかっている、と。

勿論、各会社が、科学的な教育学や心理学を理解したうえで、それでも人気タレントを繋ぎ止めるための努力をしたいと思うのなら、話は別です。しかし、教育業界においてもこのような視点は日本に輸入され始めたばかり、精神科医療メンタルヘルスも世界から随分遅れた国と言われます。ましてや身体以外の障害者雇用も理解が進まないと言われる営利目的の各企業では、まだこのような解釈をすること自体が難しいのではないでしょうか。

6. おわりに、および「もう少しのお話」の予告

いかがだったでしょうか。当記事では、科学的観点(教育学、心理学、脳科学等)による考察をした上で、グラさん(のような人気Vチューバー)の卒業理由は、「無条件で愛される経験の欠如(不充分さ)、安心感・安全感の欠如(不十分さ)」が原因になっていると結論づけました。勿論、これはあくまでも「考察」であることを、最後にもう一度お伝えしておきますが、このような視点があることを知っていただければ、多くの場面で適切な解決策を導く手助けをしてくれると確信します。

この記事はこれで終わりですが、もう少し具体的な、以下のような質問に答える形で、お話を続けます。よろしかったらこちらからどうぞ→「ガウル・グラも卒業その2。教育学の観点から一問一答形式


Q1. じゃあ、親や養育者が悪いの?→A1. これは特定の誰かが悪いという話ではなく、教育の連鎖や、社会による科学的理解、支援の不十分さが招いている問題です。

Q2. 自己肯定感が低い人達が、なぜ表現者になろうとしたの?→A2: 愛されなかったからこそ、愛されようと(人に認められようと)するから。

主な参考文献(作者五十音順)
・Gawr Gura(2025年4月16日)「important announcement – gawr gura」YouTube https://www.youtube.com/watch?v=7WFg2wq10rw&t=195s 2025年4月16日視聴
・ホログリッシュ【ホロライブENで英語学習】 YouTube https://www.youtube.com/@hologlish 2025年4月16日視聴

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