ガウル・グラも卒業その2。教育学の観点から一問一答形式

②けいけん(考え)
画像出典: salofoto
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こちらは先日の記事、「ガウル・グラも卒業。なぜ人気Vチューバーが卒業に追い込まれるのか、教育学の観点から考察」の、追加記事的な位置づけでお送りします。5つの質問に答える形で説明したいと思います。

1. Q1. じゃあ、親や養育者が悪いの?

→A1. これは特定の誰かが悪いという話ではなく、教育の連鎖や、社会による科学的理解、支援の不十分さが招いている問題です。

環境から無条件の愛情を受けられなかった方の状態には、程度や症状にもよりますが、いくつかの呼び名と捉え方があります。アダルトチルドレン愛着障害発達性PTSD複雑性PTSD、といったところでしょうか。一説には、発達障害も幼少期(もしくは胎児期)の環境に依るといわれ、私個人としては、HSPも基本環境に起因しているのでは、と考えています。

これらは基本、無条件の愛情(条件なしで存在していいという安心感、大切にされるという安全感)を感じられないことで、社会生活に適応することが難しくなっている状態だといえます。では、親や養育者が悪いのかというと、実は、愛情を受け取れなかった子どもの親もまた、同様に不適切に育っているケースが多いと言われるのです。そのため、単純に親が悪い、というような理論は成立せず、親もまた被害者である可能性が高いといえます。これは、人は自分が受けた教育以外を知らずに育つので、自分の扱われ方が、自身に対する態度と、自分の子育てに影響しやすくなるからです。自身に対する態度というのは、心理学でいう超自我の役割のこと指し、自分(もう一人の親ともいえる)が無意識に自分にかけている言葉と捉えてください。「自分なんてどうせ…」、とか、「私は人の何倍も努力しないといけないんだ…」といったネガティブな扱い、態度も、主に幼少期の不適切な環境に依ると考えられます。たとえそれらの態度が正確には言語化されていなかったとしても、いつも自分自身にひややかな対応を取られたり、責められたりしているとすれば、それは自分自身によるいじめ、とも言えるものです。

また、無条件の愛情を与える環境とは、家庭環境だけに限定されません。学校、会社などで、大きく価値観を狂わせてしまうケースもあるでしょう。勿論、幼少期に基盤が整えられていれば、多少のことには動じにくくなるとは考えられますが、エピジェネティクスという学問では親が極度のストレスに晒されていた場合、子どもが極端にストレスに弱い状態で生まれてくるケースがあるとしています。

どちらの場合も知識を以て自身を再教育しなおし、負の連鎖を断ち切る必要があります。そのために特に日本では、学校での教育、社会的価値観の転換等による風土の入れ替えと、各家庭に介入し子育てを支援できる組織や、国内人権機関といった個人を守るために力を行使できる機関の設立等が望まれています。

2. Q2. 自己肯定感が低い人達が、なぜ表現者になろうとしたの?

→A2. 愛されなかったからこそ、愛されようと(人に認められようと)するから。

データがあるのかは定かではありませんが、一般に、愛されなかった人は表現者を目指しやすいと言われます。しかしこれは理論上納得できる解釈です。愛されず心が成長していない人間にとっての一番の欲求は、人に愛されること、認められること、安全感を得ることです。マズローの欲求5段階説でも、生理的欲求の次に来るのは安全の欲求。「愛されること、人に認められることは、人間にとって生死を分けるような安全とは関係ない、そこまで大切なの?」と思われるかもしれませんが、元々人間は群れることで命の安全を確保してきました。群れの一員だと感じられて初めて、安全だと感じられるわけです(グラさんもずっと居場所を探していたようです)。現代では孤立しても即、命を奪われるようなことはありませんが、人間の脳は当時から変化していないために、現代においても孤立は死の恐怖であるといえるわけです。自分には価値がある、人間は皆味方だと感じられていれば、基本的な安全感は確保されている状態といえるでしょう。

最後に私事で恐縮ですが、私の姉は役者を目指しましたし、私もブログ等による発信を継続しています。無意識のどこかで、自身の存在を主張し、伝えよう、認めてもらおうとしているわけです。

3. Q3. トラウマはない、過去の体験は関係ないって本を読んだけど?

→A3. 科学的見解において、トラウマはあります。過去の体験の蓄積によって人間は形成されています。

まず、科学的にはトラウマはあるとされています。少なくとも、WHOはそう判断しています。加えて2018年、WHOは複雑性PTSDを診断名としました。戦争やレイプといった局所的なストレスだけでなく、長期に渡るストレスがトラウマを生むと、正式に決定されたのです。

同様に、過去の体験は現在には関係ないというのも、事実とはいえない理解です。「行動を起こせば、今度こそ成功する可能性はある。」と言うと、ある意味ではもっともですし、ひとつの考え方として、状況によってそう考えてみるのは有効かもしれません。しかし、私生活に支障が出ているようなトラウマレベルの方、状態が悪い方であればあるほど、こういった解決法は再現性が低くなるでしょう。なぜなら、無理矢理に行動して、何かを成せたところで、それが本人の幸せに繋がるのか、という問題が生じるからです。たとえばですが、恋人関係に何度か失敗し、恋愛に少し臆病になったAさんと、長期虐待にあって、人間に恐怖しながらも恋人が欲しいと切実に願っているBさんがいたとします。過去は関係ないと勇気を出し、結果両者に恋人ができました。両者とも幸せになれたでしょうか。私は、Aさんは幸せなのではないかと想像します。恋人が欲しいという願いが叶えられたのです、何も問題はありません。しかし、Bさんは本当に恋人が欲しかったのでしょうか?おそらく、Bさんの場合、自己肯定感や安心感を得るために、恋人を求めていたのではないでしょうか(他者に認められる必要に迫られているだけ)。それは無条件で自分を受け容れてくれる相手、安全な場所を欲しているのであって、正確には恋人ではありません。そのため、最初はその恋人に自身の価値を投影し、幸福感を得られるかもしれませんが、恋人はおそらく、Bさんを無条件では愛せませんし、Bさんの安心感そのものになることもできません。周囲の支援は必要ですが、安心感は本人の心の中に養う必要があるものだからです。自己肯定感が低く、安全感を求めている状態では、依存や束縛に陥りやすく、良好な恋人(人間)関係を維持することも難しいと考えられています。

4. Q4. そういう人はもう治らないの?

→A4. そんなことはありません

完治といったようなことは難しいかもしれませんが、よい状態にもっていくことは可能だとされています。子どもであれば、適切な知識を元に両親が子どもへの態度を変えたことで、数年(期間はまちまち)で状態が良くなったといった話も聞きますし、大人でも脳が変化し続けられる以上、適切なケアでよくなっていくと言われます。

トラウマ処理、安定化など、端的にいえば、潜在意識を書き換えることが治療目的といえるかと思います。詳しい治療法については、個々の状態にもよりますし、専門家の指導が必要になるものもあるため、まずは実績のある専門家に相談したり、専門書を読んだりすることをおすすめします。とはいえ、幅広い方を対象に、主戦力となり得るケアとして、個人的には「自分に優しくする習慣を身に付ける」ことをお勧めしています。

5. Q5. グラたちに帰ってきてもらうにはどうしたらいいの?

→A5. 状態改善と周囲の理解や支援があれば、それを可能にするかもしれません。

絶対条件として、彼女たちに自身の状態を整えてもらう必要があります。その上で、ある程度満たされても尚彼女たち(彼ら)に復帰したい(表現したい)という気持ちがあったとき、周囲の理解や支援がそれを可能にすると考えます。
特に日本では、なんでも自己責任と言われますが、人間という存在は相互に作用しあって形成されています。心という概念も、独立して存在しているわけではありません。個性も環境あってこそのものです。精神論や努力至上主義ではなく、科学的な理解によって、全ての方の人権を守るための仕組みを整えていく必要があります。

6. Q6. 具体的に、子どもが無条件の愛情を感じられる環境ってどういうもの?

最後になってしまいましたが、愛情を感じられる例と、そうでない例を挙げてみようと思います。しかしここで注意していただきたいのは、厳密には、「自分には価値がある、人間はみんな味方だと学習させられる言動か否か」としか言いようがないのです。これは、人間が皆違う経験をして、違う学習をしているからです。人間の反応はそこまで複雑なものではないので、確率が高いだろうことは言えますが、残念ながら絶対はありません。たとえば、基本的に存在を肯定するような言葉がけは子どもの発達に良いとされます。しかし、それによって悪い影響が出たというケースも確認されているようです。私の考えるところ、それはたとえば、「あなたは今日も生きていて偉いね!」みたいなことだとは想像します。状況やそれまでの学習によっては、このような言葉を「馬鹿にされた」と取る子どもがいても不思議ではないと考えるからです。また、「あなたが大好きだよ!」とどんなに言葉で伝えても、いざという時養育者等が子どもを見捨てるような態度を繰り返せば、その言葉は子どもにとって憎しみを感じる言葉になってしまうでしょう。

以上のような理由から、あくまで以下の例が絶対ではないことを知っておいてください

【子どもに無条件の愛情を感じてもらえる言動例】
・共感を示す、相手に興味を示す、気持ちを聞く
・存在肯定の言葉をかける
・どんな時も守るからねというメッセージを伝える
・心配しながらも、相手の意志をできる限り尊重する
・抱きしめる、スキンシップを取る

【子どもに無条件の愛情を感じさせられない言動例】
・躾を厳しくし過ぎる、幼い頃から道徳を説き過ぎる(条件設定)
・設定した条件から外れた場合愛さない
・できたことをほめる
・子どもよりも自分の体裁を守ろうとする
・一人の人間として尊重しない
・話を聞かない、感情に興味を持たない、決めつける
・一緒に過ごす時間が極端に少ない
・特に幼少期の抱っこ、スキンシップが極端に少ない
・虐待(身体的・情緒的・性的)

最後まで読んでいただき、このような考え方があることを知っていただき、本当にありがとうございました。

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