朝起きると、毎朝布団がべたべたに濡れていた。たとえば39度の熱を出して朝起きたら熱が下がってましたという時、寝間着も布団もびっしょりで思わず笑ってしまう、そんな経験が誰しもあるかと思う。毎朝そんな感じでびちょびちょになって起きる。過緊張で体が強張り、無意識に常時筋トレしている状態だったので、37歳で高校生になって体力測定をしてみたら、50mを7秒台で走り、握力は両手とも50kg以上あった。当時の体験がぐるぐると回り勉強にも集中できなかったが、もうこの道しかないと信じ込んでいたぼくは泣きながら勉強を続けた。もっと言えば脳の機能低下で頭が働かず意味が入ってこない、それをひたすらに時間をかけて学習し続けた。
「心理的虐待にあっていた」というと、甘えだといわれることが多い。ネグレクト・心理的ネグレクトは、その子どもの一生に影響を与る可能性を持つため深刻な虐待とされるが、日本での認識はそうじゃない。学校教員含む大人たちからは、「暴力や性的虐待の子を沢山知ってる。ネグレクトくらいで不幸面するな、自己責任だろ。」みたいに言われることがあるが、これは脳の問題を精神論で捉えているからだろうと思う。
過去を理由に一生泣いているつもりはないし、これまで必死に努力してきたつもりだが、子どもの時期に同情される機会を逃したぼくは、まともな治療も支援も受けられず、孤立したまま大学まできた。(当時助けてくれたカウンセラーは、強迫性障害の治療はしてくれたが、親の言い分だけを信じていた。今は無料で心の支えになってくださっている。)それでもひとつ言えるのは、どれだけ足掻いても周囲の状況をなにひとつ変えられずに、ひとり苦しんでる時の方がはるかに苦しかった。
ぼくの脳の機能低下はワーキングメモリと処理速度だが、性的虐待を受けた人と一部被っている(虐待の種類によって脳に影響が出る場所が違うらしい。)。素人の想像だけど、たぶん屈辱的な経験が繰り返されていたからじゃないかと思う。ぼくの親は「いい人」でぼくは「わがまま」だから、にこにこと演技をして、影で親に助けを求めるしかなかった。たとえば、いじめっ子が影であなたを執拗にいじめるけど、他の人の前ではあなたのことを気遣う演技をし続けたら、あなたはどう感じるでしょうか。ぼくは親に助けを求めるんだけど、結局それがどんどんと自身の精神を追い詰める結果になった。彼らの理論や道徳はきまぐれで、都合の悪いことは勢いや力でつぶされる。「泣くな!怒るな!」と、都合の悪い感情は完全否定される。その上で周囲に対しては「子どもさえ生きていてくれれば…」とさめざめ泣いてみせる…。「いい人」が話題になったからか、西川きよし氏がテレビ番組の取材に来たほどだった。金持ちだから、両親がいい人だから、そこに虐待や精神疾患に対する理解のなさが加わって、ぼくはひたすらに否定され続けるしかなかった。
単純作業すら早くできないからバイトではサービス残業しても毎日怒られたし、教員免許を取っても就職は難しい。全障害者に対して障害者雇用を始めた教育委員会ですらだ。○○都道府県の教育委員会は、健常者と全く同じように働ける障害者しか求めていないのだという。△△都道府県の教育員会によれば、それは全国どの教育委員会でも同じ状況だという。障害者雇用を強く推進しています!という□□都道府県の教育委員会の発言を意訳すれば、障害に対するいかなる対応も保証しかねるらしい。知的障害者にも健常者と同じペーパーを用意しているそうだが、仮にそれを通過できた知的障害者は本当に知的障害なのか。彼らにとっての障害とは、軽度の身体のみを指すのだろう。けど、ぼくが今直面しているのは、就職以前の問題かもしれない。
話を戻すと、そうやって他人に承認されるためだけに生きる基盤が整ってしまったぼくは、他人軸をやめ自分軸で生きるべく、まず「兎に角がんばる」のをやめた。自分が何をしたいかはまだわからないけど。毎月約6万とプラス車の維持費で節約しながらだから焦る気持ちはあるけど、今日もとりあえず生きてます。
本を読む限り、日本にはもっとひどい人生を強いられた人が山ほどいて、病院内でリンチされて殺されたり、去勢されたりしている。たとえ障害を持って生まれた人でも本当は「健康」に生きられたのに、追い詰められ取り乱せばそれさえも「自己責任」にされ、今も理解を得られていないのだと思う。2024年7月、岸田首相が謝罪し、旧優生保護法被害者に限らない、幅広い障害者に対する補償の「検討」について述べたが、そう簡単には実現されないかもしれない。
発達性PTSD、アダルトチルドレン、愛着障害(ひょっとしたらHSP、一部の発達障害も)、呼び名は兎も角として、生きてるのが辛いのは、あなたのせいではない。ひきこもり推定140万以上、一日の自殺者約60人。そもそも人は遺伝子と環境でできあがるから、社会が、教育が、福祉が整わなければ個人の力ではどうにもならなくなる。日本はこの点において後進国といわざるを得ない。現在は韓国とかの方が酷い状況らしいけど、やはり風土、制度がそうさせてしまう。ただ、それで全ての仕組みが整うのを待っていると、ぼくたちはみんな死んでしまうだろうから、ちょっとずつでも知識を入れて、自分で治療をしていくのがいいと思う。その大きな一歩が、自分に優しくすることだと考えてる。だから、兎に角、優しく接してあげてください。
主な参考文献(作者五十音順)
・「【詳細】首相 旧優生保護法めぐり謝罪“除斥期間の主張撤回”」NHK 2024年7月28日参照 https://www3.nhk.or.jp/news/html/20240717/k10014513651000.html
・大熊一夫(2017)『精神病院を捨てたイタリア捨てない日本』岩波書店
・友田明美(2021)『子どもの脳を傷つける親たち』NHK出版
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