スターオーシャン3の感動的な(はずの)エンディングに、こんなにもやもやすることになるなんて…
物語の結末に対するぼくの解釈が正しいなら、それは以下のようなものだった。
「たとえ私たちの存在が作り物であったとしても、心がある限り、私たちは世界と共に存続することができる」=「存在の意味や心の在り方は物理を超える」
主人公たちの世界は、現実世界が作り出した虚構世界でしかなく、現実世界の人間にそのデータを消去されたのに、事実続いていく「虚構世界」がここにある…。「作られた過程など関係ない、心さえあれば」、これは主人公らによる自己肯定・存在肯定のための意味づけだったと捉えられるし、心の重要性が、このゲームのメッセージとして、プレイヤーに届けられたのだと思う。
が、これを言い換えると、「私たちはたとえ死んでも(体を失っても)、心がある限り存在できる」、みたいなことを言ってるわけでしょう?
えっと、科学の存在する社会に生きるぼくは、これをどう解釈したらいいのか…
まず”科学的前提”として、心や魂は存在しない。それらは、脳の情報処理やらの主観的な働きに対して、人間が名前を付けた概念に過ぎない。そのため、当然脳が停止すれば、意識は消え、人間が「心や魂だと感じてる何某か」も同時に消え去る、と考えられている。
それなのに、なぜ、心の素晴らしさや万能感みたいなものを、物理法則を裏切ってでも前に押し出すのだろう。しかもエンディングにおけるメッセージってことは、この物語の核となるメッセージってことでしょう?SFファンタジーなのに?SFファンタジーだからこそ?ぼくには、「旧来の価値観を全面肯定して、これからもそれ続けるつもりなの?」って感じに映るんだけど…
現実問題として、”心、意志の自由さ”を貴ぶ日本の風潮が、自己責任論の温床になっている。それは精神論と言い換えることができると思う。「私たちが思えば・意思決定さえすれば、なんだってできるんだ!」、「うまくいかないのは考え方と努力が足りないからだ!」、これらの思想は確かに有益な道具になるケースもあるとは思うけど、「人は遺伝子と環境で決まる」という科学的視点を失った結果、日本では沢山の人がこんなにも苦しんでるわけで…。支援もなく、ばたばたと、毎日多くの人が自死にまで追い詰められ、国連からは人権侵害の勧告が相次ぐ国で、「こころって素晴らしいよね!」って雰囲気醸し出されるのは、もはや狂気でしかないんだが…
そういえば、と思い出したことがある。
数年前、とある人のすすめで、とある宗教に入信させられたことがあって。そこで、この真理は決して口外するなという前置きのもと、「心は、実は頭にある…」、って言うわけです、真面目な顔で。ぼくはただ心の中で、うんそうだよね、わかるよ、それは脳の働きだからね、頭にあるよね…、と。苦笑
まだ多分日本では、心は実在する臓器のように、確かな手触りと共に認識されることが多いんだろうとは思ったけど、でも、そもそも心なんかねえから。
それを踏まえた上でもう一回、言いたいんですが。
スターオーシャン3のエンディングでは、それはもう荘厳で感動的な音楽と、美しい映像で、感動的な雰囲気を醸し出してるんだけど、メインのメッセージは、「科学を無視した精神論」なの。「心の尊さ」や「魂の自由」って言われると、日本では感動してしまう人が多いとは思うけど、この「心の尊さ」や「魂の自由」の過大評価というか、それだけに目を奪われてしまってる風潮が、その裏で支援の必要だった人を確実に追い詰めてきた、という事実があるわけです。だから、確かにすごい歌もいいし、映像もきれいだし、やりたいことはなんとなくわかるんだけど、これで感動できる人いっぱいいるんだろうなって思うんだけど、モニターの前でぼくはひとり、ぽかーんってするしかないわけで…
そりゃ途中で一度だけ、「あれ?」って思った部分はあったけども。それは、ゲーム内辞書の「魔界」についての記述の中のこんな表現。「物質に魂が宿ることで命を持つこの世界とは違い、精神が肉体を得ることで活動が可能となる世界(注1)」って…
前半は、虚構世界でも魔界でもなく、現実世界の話をしてるはずなのに。SFの小難しい設定を山ほど作れる人が、なんで魂なの?なんで魂をそんなに肯定したいのさ?「魔界」と一緒なの?これこそがファンタジー要素の部分なの?ねえ?
うー、もやもやするー。
(※念のため、それ以外は純粋に素晴らしいゲームで、個人的にとても楽しませていただきました。)
注
1 「スターオーシャン3 -Till the End of Time- ディレクターズカット」(2017)スクウェア・エニックス PlayStation 4
主な参考文献
・「スターオーシャン3 -Till the End of Time- ディレクターズカット」(2017)スクウェア・エニックス PlayStation 4
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