1 はじめに
行政が先導する孤立支援、ひきこもり支援、自殺対策が存在するのに、それらの支援の多くによって問題が解消されていかないのはなぜでしょうか。
理由は単純で、特に現場(地方自治体や各種機関・団体など)において困難な状況にある方々の実態と苦しみの本質を把握できていないためと、教育の理論を軸にした対策が徹底されていないためだと考えます。
2 支援の現状
孤立支援における議論が展開されている様子はあるものの、2024時点での主となる支援は、相談窓口と各種機関・団体の紹介です。これはひきこもり支援・自殺対策でも同じで、あくまで当事者側から助けを求めることが前提です。しかし、人間に恐怖感を抱き孤立している方々にそれを求めることは、現実的といえるでしょうか。症状が軽度の方、協力的な家族が存在する方であればそれでいいのかもしれませんが、そうではない、より困難な状況にある方々こそが、支援の対象から外れているように思われます(一般に、日本では家族で助け合うことが前提に全てのルールが作られている、といわれる)。また、その他の機関を紹介してもらっても、それらの機関に救われるケースがどれだけあるでしょうか。というのも、日本には、多くの専門家にメンタルヘルスに関する知識が乏しい(関連記事:「専門家に頼れない?心の問題」)、国内人権機関が存在しない、という問題があるからです。乱暴に言えば、殆どの機関に知識も力もない状態なのです。そのため、どの機関や団体に助けを求めても、「話を聞くことしかできない」と言われてしまいます。過去私個人の体験としても同様でした。福祉は本来ルールから漏れた人々を救う役割を担っているはずですが、「法律やルールで決まっている範疇でしか絶対に動かない」、という頑なな意思も感じられます。これでは、どれだけ多くの機関・団体が存在していても、解決に至ることはないでしょう。
しかしこれは福祉だけを変えればいいという話ではありません。問題を生みだす土壌から入れ替える必要があるものです。
たとえば、やり直しがきかない風土は、発達段階で優秀であることを求められるため、無条件に自身を認めることを難しくします。優性思想による差別があるということは、今は差別をする側にあったとしても、それは同時に、自身も条件次第で差別される側に回るのだという学習にも繋がります。これでは、裕福で愛情深い教育を受け継いだ家庭に産まれることができなければ、安心して育つことも叶いません(貧富と教育格差、親ガチャは深刻な問題です)。
教育が安定せず、「ひきこもり」が海外でも通用する言葉となり、自殺率が驚くほどに高く、メンタルヘルスの遅れが指摘され、人権侵害問題に発展するケースも珍しくない。国連からは勧告が相次ぐものの政府はこれを拒否、優性思想と精神論が根強い風土で、今も自己責任論が展開されています。
グローバルな流れから2021年から孤独・孤立対策担当大臣が日本に誕生しましたが、当時なぜかYouTubeにて18歳以下の方のみを対象としたメッセージが送られました。他動画でも、私も学校で孤独を感じてきた、といった発言が多く見られます。学校で孤独・孤立を感じる、というのも見過ごすことのできない苦しみ・問題ではあるのですが、今の日本には家族や友人すら存在せず、日々暮らすお金もなく、ひとり社会から差別されるような状況に追い込まれている方々が確実に存在しています。2023年8月の動画では、「孤独・孤立の問題は年齢・性別問わず、きっかけ次第で誰にでも起こり得ます」との発言がみられますが、本当にその問題の本質をわかっているのだろうか、と疑問を抱かずにはいられません。そうでないならば、なぜ、孤独・孤立といった状態を生み出す「苦しみの本質」に対するアプローチがなされないのでしょうか。なぜ、より困難な状況にある方々にこそ機能していないと言わざるを得ないような、相談と各種機関・団体の紹介が、支援のメインになっているのでしょうか(実質それしかないと言っても過言ではない状況)。
3 必要だと考えられる支援
孤立も、ひきこもりも、自殺も、多くのケースにおいて原因は同じです(関連記事:「教育の理論「概要」」)。教育の理論から逆算すれば、それらの本来の解決策は潜在意識の書き換えになります。しかし一瞬で叶うことではないだけに、いくつかの具体策を同時進行する必要があると考えます。当事者の方々の、それぞれの経験による学びの違いから、一概に言えることではありませんが、考えられる主な手法としては次のようなものが挙げられます。(順不同)
①支援者側からの回復のための情報提供と接触(アウトリーチ)
②金銭的・精神的な生活支援(生活のための焦りが回復への大きな支障となるため)
③人・社会に対し段階的に慣れていくための関わりや居場所提供(認知行動療法等)
④学校・仕事の場への定着支援
①一番重要なポイントは、「なぜ人と関われなくなっているか、なぜ生きているのが辛いのか」、です。多くの場合、表面的に見える問題・困難はきっかけにすぎません(いじめなどの人間関係のトラブルも、精神的に安定していないがために引き寄せやすいと理解されています)。状態が深刻であればあれるほど、大元にあるのは、潜在的な自己否定感や他者への恐怖だと考えられます。当事者の方こそが、自身の現在の状況と回復への道筋を理解することは有用でしょう。支援では、あくまで外部からの、無理のない段階的な接触を想定する必要があります。
②「自身には価値がある、人間は皆味方だ」といった感覚を刷り込むためには、無条件に認められるという安心感が欠かせません。成人の方でも同様です。経済的に不安がない、精神的に頼れる「人」が存在する、その上で未来に希望を持ち、精神的な休息をとることができる。時間をかけ、社会生活を送るための基盤形成を図ります。
③潜在下で育った無価値観や恐怖心を取り除くのは容易ではありません。恐怖の回避によって、不安感に取り付かれ、不安障害に陥っているケースもあります。いきなり沢山の人がいる場所に外出することが困難な場合は、訪問やオンラインを通じて、信頼できる人を増やし、喜びをもって段階的に認知を変えていくことが望ましいでしょう。
4 おわりに
上述したように、もともと日本の教育が安定しておらず、その根底には日本の政治・風土の問題があります。それらを把握できていないためか、文科省に従うしかないためか、教育者を育てる大学でも、安定した家庭を前提とした教育を語っているように思われます。科学的な視点が入っても軸は精神論であり、あくまで愛情を与えるのは家庭の責任なのです。勿論、これら仕組みとしての欠陥・不条理を理解し、人権のあり方や教育、医療・社会保障等の現状を嘆いておられる大学の先生方もおられました。各分野における関連書籍も年々出版されています。しかし依然として、事実に基づかない「常識」が先行しているのです(関連記事:「妄想共有能力」)。
常識に囚われずに情報を取り入れ、支援を機能させる。そして途方もないように思われますが、根本から日本の現状を正すためには、福祉だけでなく、政治を変え、教育を変え、風土を変えていくことが必要です。
主な参考文献(作者五十音順)
・「孤独・孤立対策について」厚生労働省 2024年10月31日参照 https://www.mhlw.go.jp/content/12000000/001309353.pdf
・孤独・孤立対策推進室(内閣府)(2021年8月20日)「18歳以下のみなさんへ 坂本孤独・孤立対策担当大臣メッセージ」YouTube. https://www.youtube.com/watch?v=7XnC66_SLlA 2024年10月31日参照
・「貧困と生活保護(8) 声を出せない人たちを助けるには」yomiDr. 2024年10月31日参照 https://www.yomiuri.co.jp/yomidr/article/20150828-OYTEW55161/
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