いつだったか、メディアを通じて美輪明宏氏が次のようなことをおっしゃっていたと記憶する。
人間はみなその人のこころの世界で生きている。悪いことをするなというのも、悪いことをすれば地獄に落ちる、といった意味合いではなくて、荒んだ精神状態であればその人の見る世界は暗い世界になってしまうからだ。
当時子どもながらに、皆が同じ世界を共有してるわけじゃないのかと、心細い気持ちになった。でもその後それを強く実感することになるのは、何十年も先のことだった。
35歳、精神疾患から解放され自由になって、それまで無意識に押しやってきた数えきれない理不尽な出来事と悔しい気持ちに直面。喜びも束の間、強いうつ状態に陥った。「世界」というのは心理状態の差異を表すだけ、あくまで表現の話だと考えていたけど、その時はそうも言い切れないんじゃないかと思った。説明が難しいのだけど、世界の色や空気感が一変し、本当に別次元に迷い込んだように感じるほどだったから。知っている場所、知っている人が存在しても、自分の知っている場所や人はもう何処にも存在せず、息をするだけで肺がただれてしまうように感じた。何処かに冷静な自分が居て、「ああ、だから一定数の人にとっては明るく幸せなこの世界でも、多くの人が自ら死を選ぶしかなくなるんだなあ」と、この世の真理を体得したような気持ちになっていた。
言わずもがな、これらはただの心理状態であって、こころ(脳)が学習してきた内容が、人間社会を生きるための適切なそれではなく、無価値観と人間不信に圧迫された状態だったのだと思う。こころを守るため見ないようにしてきたトラウマ体験に、いっぺんに打ちのめされ、自身の価値観のコンパスが機能していない。まずどっちが上かが分からないから息を吸うためにもがくこともできない…
ここまで極端な話ではなくても、人間はそもそも同じ世界を共有しているわけではないという現実。
その後定時制高校に通い、自分と同じように、環境に恵まれない生徒が多いことに驚いた。子どもの学力は親の収入に比例することは内閣府のデータが明らかにしているが、もっと重要なのは精神状態の在り方の方だ。こころ(潜在意識、脳)が健全に育たないと生きていること自体が困難になる、だから当然どの定時制でも、教員の仕事は学力向上よりも生徒指導寄りになる。しかし、その教員が「教育の理論」を理解していないために、多くが押さえつける指導しかできない…。多くの教員は恵まれた環境で育っているため、生徒の心理状態を察することも難しいようだった。
以下、ゲームP5R、モルガナの言葉。
(この世界は)全てが「認知」の産物なんだ。自由に作り直せるんだよ…(中略)「ほんとの世界」なんてどこにもないんだ。一人一人が見て感じた世界。それが、世界の全て… だからこそ、世界は「無限」なんだ。(中略)世界は、君たちの中にあるんだ…
認知を潜在意識レベルで変えるのには知識や訓練が要る。過去の記憶だけでなく、今生きる環境も大きく影響するだけに、個人だけの問題として完結できるものばかりでもない(関連記事:「日本の支援(福祉)が機能しない訳」)。それでも、これでもかというほど科学的で実用的な言葉だと思う、興醒めな言い方かもしれないが。
主な参考文献
・「ペルソナ5 ザ・ロイヤル」(2019)ATLUS PlayStation 4
・「第3章 日本の子供の貧困に関する先行研究の収集・評価(2.2.(2))」内閣府 2022年3月20日参照 https://www8.cao.go.jp/kodomonohinkon/chousa/h28_kaihatsu/3_02_2_2.html
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