【妄想共有能力】なぜ人は流されるのか

①ちしき
画像出典: Rohan_K_Draws
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なぜ人は流されるのか。「常識」は事実ではない。

皆が共有している「常識」に対して、一部の人間がある意味「反論」を発し続けることがあります。このブログにも、一般常識から逸脱した情報が載っているかもしれません。そのようなとき、私たちはなぜ、常識の方が正しいと考えるのでしょうか。「事実だから共有されるんだ、確かなものだから、価値あるものだから共有されるんだ」、と考える方もみえるかもしれません。「大勢が同時に間違いを犯すはずがない」と思われる方も。しかし後から過去を振り返ってみて、「あの時代はおかしかった」とか、「あのファッションは異常だった」と否定的に捉えることはありませんか。歴史をみれば、戦争をはじめとする悲惨な事件が世界中で繰り返され、今も終わることはありません。身近なところでは、「なんで、みんなと一緒になってあの子をいじめてしまったんだろう」、「なぜ周りの目ばかりを気にして、子どもを守ってあげられなかったんだろう」、そういった切実な後悔をひきずっておられる方もみえるでしょう。
妄想共有能力はこういった現象の要因を指し、この性質を理解することが、自身の価値観によって物事を選択することを助けてくれます。メタ認知することで過ちを減らし、あなたの大切な人生をよりよいものにしてくださればと願います。

説明の前に、「妄想共有能力」は定型発達者の殆どが持つ性質だといえますが、呼称自体は便宜上ここで名付けたものです。何卒ご了承ください。

「妄想共有能力」は、一言で言うなら他者と妄想(考え)を共有、強化することに価値を見出す性質です。「妄想」という言葉に引っ掛かりを感じる方もみえると思いますが、後々説明しますので、ひとまず「考え」だと捉えてみてくださいね。たとえば、あなたの友人が「○○の新曲いいよねー。」と話し掛けてきたとき、「ああ、わかるー。」とコミュニケーションを取ることが、ここでいう妄想共有と強化です。また「あいつむかつくよねー。」と言われて、「わかる!あいつさあ…」と話を展開することも同様です。文字通り、妄想を共有し強化していきます。更に相手の意見に賛同できない時でさえ、人は他者に合わせてしまうことがあります。価値観のシンクロを起こしたり、空気を読んだりするのです。その商品が欲しいわけではないのに、みんなが持っているから本当に欲しくなる、本当は嫌だけど、皆がやるって言ってるから黙っておこう…。そして私たちはこの行為の中に、「仲間意識」や「安心感」といった価値を見出します。反対にいえば、人は仲間意識や安心感のために、自分の大切なものを捨ててしまうことがあるということです。

なぜこのようなことが起こるのでしょうか。
人間の脳は狩りの時代から変化していないといわれます。かつて、個別では力の弱い人間が孤立することは死に繋がりました。そのため、集団においてのマジョリティーであることが、命を守るためには必要なことだったのです。現代では決して死に直結する事態ではないはずですが、孤立は今でも死の苦しみだといえます。
そのために、大勢の在籍する妄想や、自身の考える有力者が在籍する妄想に人は与しようとする、と考えられるのです。

ここで「妄想」という言葉の意味を考えてみます。「考え」でもよさそうなものですが、「考え」ではこの性質を正しく認識するには不十分だといえます。
心理学や仏教の世界で、「人間の考えることは全て妄想だ」のように表現されることがあります。人間はそもそも、事実を事実のままに認識することができません。必ず価値観や判断といったフィルターを通して事物を解釈します。良くも悪くも意味付けを行ってしまうのです。たとえば、知り合いに挨拶をして挨拶が返ってこなかったとき、「何かしてしまったのだろうか、嫌われたのだろうか」といった具合です。実際には、相手はただ聞こえなかっただけかもしれないし、考え事をしていただけかもしれません。事実としてあるのは、「声をかけたけれど返事が返ってこなかった」という出来事だけです。けれど、その出来事だけを受け取るということが人間には不可能といえます。更にいえば、現在にありながら過去を悔やみ、未来を不安に思うことで、時間軸でもさまよっています。
「○○の新曲いいよねー。」、「あいつむかつくよねー。」に心から賛同したつもりでも、それも主観的な判断でしかない。これらが、人の思考を妄想だとする理由になります。

いかがだったでしょうか。流行、いじめ、空気読み、宗教儀式から社会人としての儀礼まで、人間の文化は切り口によって、大概を妄想だと捉えることができてしまいます。人間が社会的な生き物だといわれ、自身の価値観だけを独立させて生きることが難しい理由でもあります。
この性質を完全に手放しましょうという話ではありませんが、この知識が、あなたにとってより良い選択の手助けとなれば嬉しく思います。

主な参考文献(作者五十音順)
・野尻英一 高瀨堅吉 松本卓也編著(2019)『<自閉症学>のすすめ』ミネルヴァ書房
・吉本隆明(2021)『改訂新版 共同幻想論』KADOKAWA

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