幼少期の経験等を理由に、今生きづらさを抱えておられる方は多いかと思います。そんな中、日本では「自分自身で知識を身に着け治療する姿勢が重要になる」、という話をしたいと思います。ただ、中には今その気力すらないという方もみえると思いますので、そのような時はどうか自分自身に優しく接しながら、ご無理をされないようにしてください。
結論からいえば、日本の精神科医療は世界から50年遅れている、と揶揄されるほどの状態にあり、多くの精神科医が適切な治療を施せない、現場によっては明らかな人権侵害が起こっている、といった現実があるからです。カウンセラーの質に関しては明確な資料がないため断言できませんが、医療に逆行してカウンセリングや教育だけが独立して世界レベルだと考えることは難しく、ひきこもりや自殺者数を考慮すると、日本のメンタルヘルスの課題は深刻だといえます。少なくとも、カウンセリングに関しては保険が適用されず、実力のあるカウンセラーほど高額な支払いが発生する傾向にあります。精神的苦しみに対する偏見と相まって、利用するための敷居も低くありません。
なぜこのような現状があるのでしょうか。日本の精神科医療の成り立ちを振り返ってみます。
第二次世界大戦の後、戦火の影響によって日本の精神科病床は約4千床に減少していました。しかし1954年の全国精神障害実態調査によって、入院を必要とする患者は全国で35万人だと推定されたのです。多くの精神病床が必要になった政府は、精神科医療の民営化を推進していきました。精神科特例によって医師や看護師等の配置を少なくても良いと定め、更には国庫補助(給付金)規定を設けました。その結果、日本の精神科病院の8割、精神病床の9割は民間病院となったのです。そして民間経営の病院ではいかに利益を得るかが追求されました。低医療費の中、入院ベッドを患者で埋めることが主眼となり、必然的に長期入院患者が増えていったのです。
本来精神科病院は、一般病院よりも多くの人員を必要とします。心の健康問題を扱うため、患者の視点に立った医療・看護を行う為の人員体制が求められるからです。治療に人員を割けないとなれば、必然的に薬物療法に頼らざるを得ません。そもそも患者を入院させることは利益のためで、患者の治療や尊厳は重視されていませんでした。
後に対策も取られます。
たとえば2004年、厚生労働省の精神保健医療福祉の改革ビジョンにおいて、「入院医療中心から地域生活中心」へという理念が示されました。この理念では、患者にとって適切で良質な医療を確保するための指針が掲示されました。
また2017年の「これからの精神保健医療福祉のあり方に関する検討会」報告書では、地域包括ケアシステムの構築を目指すことが、新たな理念として明確にされました。地域包括ケアシステムとは、高齢者を地域で支援するという考え方を精神障害者にも応用したものです。
しかし未だ何も変わっていないという声もあります。それは、今もなお多くの患者が閉鎖病棟に閉じ込められ人権を侵害されたり、適切な医療が行き届いていなかったり、といった現状があるからです。
更にこのような背景には、日本の優性思想や精神論があると考えられます。
恥の文化と称される日本では、江戸時代から障害者を身内の恥として、人の目に付かぬようにと閉じ込めてきました。時折時代劇で目にする、座敷牢、後の私宅監禁です。第二次世界大戦に入ると、戦争に協力できない障害者は「役立たず」、「穀潰し」と公に批判されるようになり、日本中に優性思想が蔓延しました。1950年私宅監禁は違法とされるも、先述したように精神科病院でも患者のための医療は提供されておらず、患者にとっての監禁という事実が変わることはありませんでした。
また、心の問題は脳科学や社会心理学といった科学で説明できる問題であり、精神論では解決できないものです。しかし、日本では今でも、それを心の弱さだと捉えられてしまうことが多いのです。
「自分自身で知識を身に着け治療する姿勢が重要になる」、というのは、このような歴史が、現時点(2024年)においても影を落としているからです。筆者の個人的な感想として、現在どこの精神病棟へ診察を受けに行っても、よほど即拘束されるといった危険はないと思いますが、保証もできないというのが素直なところです。また医療関係者の人当たりや人間性がどんなに信頼できるものでも、薬物療法や長期入院だけが提供されるのであれば、適切な医療とは呼べません。病院に通い、薬をもらうだけでも治療に役立つことはありますが、ご自身の状態を知り、照らし合わせてご検討される必要はあるかと思います。
少しずつでも知識を付け、実践していくことが、改善への近道になるといえます。
主な参考文献(作者五十音順)
・大熊一夫(2009)『精神病院を捨てたイタリア捨てない日本』岩波書店
・厚生労働省編(2018)「第9章 障害者支援の総合的な推進」『厚生労働白書』平成30年版 485頁-489頁 厚生労働省
・日本医療労働組合連合会精神部会(2017)『精神科医療のあり方への提言』日本医療労働組合連合会精神部会
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