先日、生まれて初めて催眠療法というのを体験した。
とてもよくしてくださっているカウンセラーの先生が、お正月に訪ねてくださり、「今日は、催眠療法をやってみましょうか。」とおっしゃる。お茶でも飲みましょうか、と同じトーンで言われたので、若干鳩が豆鉄砲だったけど、ふたつ返事でお願いした。催眠療法については、最後に少しだけ触れているけれど、ここでは、その不思議体験をメインに記したいと思う。問題を起こしている自分に会いに行く、というのが今回の目的とされた。
「今薄暗いところにいて、明るい光が射してきます…」
「目の前に、地下へと続く階段があります。どんな様子ですか…?」
目をつむって、先生の声にひとつひとつ答えていくと、ブラウン管で観るセピア映画の世界に、自分が入り込んでいるような気持ちになった。
地下に降りると、どこにも繋がってない短い通路があって、その真ん中に扉がひとつだけある。その中にもうひとりの自分がいた。
…ここでは彼を、厨二的にオレンジと呼びます、今、決めました。(吉本ばななさんの小説に、昔大好きだった「マリカのソファー」というお話があって、解離性同一性障害の女の子が出てくる。そのマリカの中にいる別人格に、オレンジやペインがいた。うろ覚えだけど、思い出したらまた読みたくなってきた…)
その部屋は大体7畳くらいの広さなんだけど、奥に細長く、死角はない。左には流し、あとはごみ箱みたいな物が確認できるんだけど、妙に生活感はなく。一部屋ではあるものの、床が途中で木目調からカーペット的なものに変わっていて、そこに間切り感がある。ベッドはその端に置いてあった。その上で、体は二十歳くらいなんだけど、なんだか妙に幼い印象を受けるオレンジが、膝を抱えて凍り付いたようにこちらを見ている。
「名前は教えてもらえそうですか…?」
と声がするので、え?違う名前が付いてるの?と焦りながら聞いてみると、ほとんど聞こえないくらい小さな声で、ぼそりと、まんまのぼくの本名で応えてくれた(オレンジは設定だから…)。今度は、
「問題を引き起こしている本人なのか、聞いてみましょうか…」
と天の声がする。どうやらオレンジはその一人ではあるものの、基本問題の症状毎に担当があって、他にもオレンジみたいな子がいるらしい。すごく寂しそうな暗い目をしてて、全部を諦めてしまったような無口な子。ぼく自身がすごくおしゃべりだから、違う自分とはいえ意外な気がする。
「何かして欲しいことがないか聞いてみましょうか…」
オレンジが両親の愛情を求めているのは聞かなくても分かっていたから、ぼくにできることはないと思ったけど、手を握ったり後ろからぎゅってしたりする。…自分の分身だと考えると非常にきまずい、オレンジも、すごく、きまずそう。
「何をしてたか聞いてみましょうか…」
ぼくも不思議に思って聞くと、暫く時が止まった後、「ゲーム…」と言う。でもその部屋にはモニターもないし、ゲームと呼べるような物も見当たらない。ぼくが明かりを持ってるから部屋の中が見えるだけで、光源になるような物もない。これじゃトランプやボードゲームだってできない。「先生、この子ゲームって言ってるけど、ゲームなんかないよ…?」天の声担当の先生が応える。
「不思議ですね、じゃあ、折角なので、一緒にゲームをして遊んでみましょうか…?」
件のどこにも繋がってない通路の、オレンジの部屋の右隣に扉を増設。イメージの中でもう一部屋こさえると、実際の自分の部屋をリンクさせる。そこは一人用のダイニングこたつしか置いてないから、ふたりで横並びできるよう、細長いこたつへと変形。椅子とPS4のコントローラーもコピペする。オレンジの手を引っ張って連れてくると、左隣に座らせて、コントローラーと、「どせいさん」のぬいぐるみを膝に置いてあげる。気付くとオレンジの体は、さっきより幼くなっていて、足を少しだけパタパタ動かした。「お前もやっぱり、どせいさん好きだったか…」表情は硬くて暗いままだったけど。
…再び、天の声のガイドを頼りに現実に戻ってくると、ぼくはちょっと楽しい気持ちだった。足をパタパタしてるオレンジを見れて嬉しかったし、ぼく自身も癒されたような気持ちだった。先生は、「他の自分にも会えそうでしたか…?」と仰るので、直感的に答えたのは、多分もうひとり、殺人鬼ジェイソンみたいな自分がいる、って。折角なので、この子のことは、ペインと呼びます。「物語なんかでは、今時こんなストレート過ぎる悪役みたいなの、登場人物として出せないよっていうくらい、直情的な自分の存在を感じる気がします…」「なんで怒ってるか分かりますか?」「ぼく自身の知識がダイレクトに影響してるかもだけど、誰にも認められなかった、誰にも愛されなかったと感じていて、人間が憎くて憎くて仕方ないんだと思う。自分を苦しめ、そんな自分を悪役に仕立て上げてきた家族、自分の言葉を信じようとしなかった周囲の人、さびしくて、悔しくて、包丁持って目ぇギラギラさせて彷徨ってる気がする。そんな気配を感じるような気がする。」「…いつか会えそうですか?」と、少し心配そうに先生がおっしゃったけど、それは大丈夫な気がして。「多分、今日あった子の部屋の左隣に、もう一部屋増設できると思います。」と言ってから、二人で笑って、終了いたしました。
不思議な気持ちだったなあ。先生に催眠療法について伺うと、無意識・潜在意識に繋がりやすい状態を作るために、こんな手法を取るらしい。そういえば前に読んだ本に、普段は閉めている無意識への蓋が、寝ている時には開いてしまうと書いてあった。理屈は分からないけど、そんな状態を意図的に作ってるのかもしれない。ざっくりと言うなら、潜在意識の書き換えこそが治療の目的となるわけで。(関連記記事:「教育の理論」)
なんにせよ、はやくペインにも会いたいなー…
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